Fish is Fish

 
森のはずれの池の中、小魚とおたまじゃくしが水草の間を泳いでいました。
小魚とおたまじゃくしはとっても仲の良い友達だったのです。

ある朝、おたまじゃくしは、夜の間に二本の小さな足がはえてきたことに
気づきました。「見て」とうれしそうにおたまじゃくしはいいました。
「ぼくはカエルなんだ!」。
「そんなばかな」とおたまじゃくし。「きのうの夜まできみはぼくと同じ
小さな魚だったじゃないか」。

二匹は何度も何度も言い合いましたが、でも最後におたまじゃくしは、
「カエルはカエルさ。魚は魚なんだよ。それだけさ」。

それから数週間後、おたまじゃくしには、小さな前足がはえてき、尾っぽ
は小さく小さくなってきました。

ある晴れた日、ほんもののカエルになったおたまじゃくしは、水の中から
はい上がり、草むらの中に入っていきました。

小魚も大きくなり、りっぱな魚になっていました。

魚は四本足の友達はどこに行ったのだろうと思いました。
でも、何日も、何週間たってもカエルは戻ってきませんでした。

ある日、楽しげな、どぼんという音がして水草がゆらゆらとゆれました。
カエルが池にもどってきたのです。
魚は「カエルくん、どこにいてたの?」と大喜びでたずねました。
「ぼくはぴよんぴょんとあちらこちら飛び回りながら、いろいろな世界を
見てきたのさ」。「びっくりすることがいっぱいあったよ」とカエルはい
いました。

「どんなもの?」と魚がたずねました。
「鳥さ」とカエルは不思議そうにいいました。「そう鳥なんだ!」そして、
カエルは、羽があって、二本足で、それはそれはたくさんの色をした鳥の
ことを魚にお話ししてあげました。

カエルのお話を聞き、魚は、心の中で、羽の生えた大きな魚をが空を飛ぶ
様子を思い浮かべました。
「ほかにどんなのがいたの」と魚は待ちきれないようにたずねました。

「牛だ」。「そう牛なんだ!四本足で角がついている。そして、草を食べ、
お腹にはミルクのはいったピンク色の袋を持っているんだ」とカエルがい
いました。

「そして人間!」「男の人、女の人、子どもたち!」。カエルは池の中で、
あたりがすっかり暗くなってしまうまで次から次へとお話をしました。
魚はカエルのお話がとてもぴかぴかと輝くようにきれいで、すばらしかっ
たので、寝ることもできませんでした。もし、カエルさんのようにぴょー
んと池を飛び出して、すばらしい世界を見ることができたら・・・。

しばらくすると、カエルはどこかに行ってしまいました。魚は空を飛ぶ鳥
や草を食べる牛のことや、カエルが人間とよぶ、服を着た不思議な動物の
ことをぼんやりと考えていました。
ある日、とうとう魚は、ぼくも絶対にカエルくんが見たもの見るんだと決
心したのです。そして、尾っぽをビュンとふり、水から岸辺へ飛び出した
のです。

魚は乾いていて、あったかい草の上に落ちました。そして、息をしようと
したのですが、息をすることも動くこともできませんでした。
魚は「たすけて」と弱々しくうめき声を上げました。

幸運にも近くでチョウチョを追っかけていてカエルが魚を見つけ、力いっ
ぱい魚を池に押し戻したのです。

とても怖い思いをした魚はしばらくの間、泳ぐこともできず、池でぷかり
と浮いていました。しばらくして、魚が深く息をすると身体の中に気持ち
の良い冷たい水が入ってきました。
水の中で身体が軽くなり、魚は恐る恐るゆっくりと、尾っぽを前に後ろに、
そして下に上に動かしはじめました。

太陽の光が水草の中まで照らし、きらきらと輝く光がゆらゆらと動いてい
ました。

この世界は本当に一番美しい。魚は蓮の葉っぱの上で座って見ているカエ
ルにいいました。「君の言うとおりだ」「魚は魚なんだね」。